異常な国、日本

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世界各国の中央銀行が利上げを行っている。

これは主にコロナとロシアによるウクライナ侵攻に端を発する急激なインフレーションに対応するためだ。アメリカでは2020年前半のコロナによる混乱で失業率は14.7%*1になり、一方でコロナの回復に従い3.9%*2に増加するなど、経済の混乱が激しい。世界の工場になった中国や、タイを始めとする東南アジア、そしてインドなどで急速なコロナウイルスの流行による工場の操業停止は世界各国の流通網に打撃を与え、上流の製品の生産を停止させた。これに加えて、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、世界の穀物とエネルギー価格が輪をかけて上昇する事態になった。

各国の中央銀行はコロナ以前におおよその政策目標を達していた。リーマンショック(グローバル金融危機)に始まった世界経済の混乱は、伝統的な金融政策である金利の操作のみでは対応しきれず、非伝統的金融政策と言われる量的緩和政策を行った。それはフォワードルッキングによる中央銀行アナウンス効果中央銀行の資産の変更、そして中央銀行の資産を増加させることだ。これは中央銀行が物価目標を設定し(多くの先進国は2%)、リスク資産を購入し、そして資産を買い増すことで、市場に資金を流し、混乱しきった市場を正常化させる狙いがあった*3。この物価目標は、インフレ率2%というのが経済が成長するのに良い環境であるため、設定されている。そして物価目標達成を達成した国から順にテーパリングを始め、米国、欧州は政策の変更を決定*4、あるいは変更*5に向けた会議を行っている状態だった。一方で日本では、他の先進国に遅れ2013年、自民党政権政権交代後、アベノミクスという形で、日本銀行は積極的な金融政策を行う方向にかじを切った。黒田総裁は白川前総裁の比較的緊縮的な政策から、緩和政策に切り替え、2014年5月に1ドル101円代だった為替は、2015年5月に120円代に下落*6した。財政政策と合わさり、日本の失業率は2014年の3.58%から2020年は2.78% *7になり、2019年には高卒の就職率は98.2%とバブル期並*8の数字を叩き出すことになった。だが、物価に関しては一時的に2%に達したものの、その後目標を超えることはなかった。そのため日銀は2016年にマイナス金利付き量的、質的金融緩和政策を行った。これにより政策金利として日銀当座預金政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用した。続いて長短金利操作付き量的、質的金融緩和を行った。これは上記の政策に加え、長期金利に足して10年物国債金利が概ね0%程度で推移するように長期国債の買い入れを行うものだ*9。だがそれでも日本の物価は2%を超えず、世界各国のマクロ経済学者にも大きな疑問を呈することになっている。これがアベノミクス下で起きていた金融市場と経済のざっくりとしたまとめである。

確かに日銀は他の国に比べて金融政策の変更が遅かったにしろ、日銀の掲げる安定的な物価上昇を達成できていない。そこに今回のコロナから始まりウクライナ侵攻による世界的な物価高によるインフレと、世界各国の利上げが発生した。

日本の大きな問題点は物価の上昇が起きていないことだ。これは先程も書いたが多くのマクロ経済学者が頭を悩ましている問題で、日本の異常性を示している。バブル期から振り返ってみれば、確かに日本経済は大きなバブルを破裂させ、90年代の経済成長は失速した。これに対して日銀はゼロ金利政策と2000年代初頭に一時的な量的緩和政策を行っている。ある程度物価の上昇を確認したところで量的緩和政策を中断したものの、06年のライブドアショック、そして08年のリーマンショックを経験する。続けて2010年の欧州債務危機や11年の東日本大震災と日本経済が復活する暇が与えられていたかというと難しい。しかし世界からは失われた10年は20年に延長され、さらに延長されている。同時に日本国内でも実質賃金が維持、あるいは停滞する。新卒社員の初任給は1992年の18万6000円から2008年20万1000円からほとんど変わっておらず*102019年でも21万円となっている。またビッグマックの値段は2012年320円から2022年390円とこれもほとんど変わっていない*11。そして年金受給者の数は2022年で4040万人*12になっている。

物価の上昇に対する圧力は何が原因か。素人ながら考察すれば、賃金が上昇していないため、需要が伸びていないこと、そして年金受給者、つまり年単位の収入が一定の人たちが多くいるため、こちらも需要を伸ばすことができず、むしろ価格の上昇を引き下げる効果があったのではないかと思っている。つまり経済が循環するために日銀や政府が金をばらまいても、それがどこかで滞留し、広く消費者に回っていない状況が考えられる(これはアベノミクスのとき、トリクルダウン効果として言われ、シャンパンタワーに上からシャンパンを注ぐように上から下へ富が落ちてくると思われていた。しかし、アベノミクス以前からトリクルダウンは反対する意見もあり、実証研究でも否定的な文献もある*13。これはバブル崩壊やその後の失われた20年を経験した経営者などが、過去の痛みから会社に資金を持ち、かつ社員の給与をなかなか上げることができなかったことも背景にあるだろう(そのため、おそらくではあるがゾンビ企業と言われる「市場から出ていくべき企業」の割合は日本が高いだろうと思われる)。そして給与を上げられない原因の背景には、日本の解雇規制が強く働いているに違いない。これは会社が余剰人材を減少させられず、また給与上昇局面では保守的になる原因になってるだろう。一方で労働者は雇用が守られることにより、安定した生活によるライフプランの設計と住宅ローンなどの長期ローンを申し込むことができ、加えて会社内での先輩後輩関係から会社内での若年層の労働者に対する技術移転が起き、会社内での人的資本の蓄積につながっている。そのため賃金の上昇が起きていないひとつをとっても、メリットとデメリットがあり、また会社により事情が大きく異るため、足並みを揃えた方針転換は難しいだろう(おそらく日本の賃金停滞は労働者を不満にさせるほどではなく、生活に困るほどではない金額で均衡点が働いているものだと思われる。そのため物の値段は安い方に動き、かつ労働争議を始めとしたストライキなどがほとんど発生しない)。年金受給者に目を向ければ、資産を保有している年金受給者世代はたしかにいるだろうが、多くが預貯金はあるものの裕福に生活できるほどではなく、年金が総取得の100%を占める世帯は51.1%になっている*14。そのため生活に必要な最低限の物を購入しているのだとすれば、物価を低くする方向に圧力がかかるのは当然のことだろうと思われる。つまり賃金が低く固定された生産実行世代と年金受給者が増加を続ければ、日本の物価を維持または低くしようとする圧力が働くことは当然のように考えられる。だが、それが維持できるのはもって今年までだろう。

日本は今後、世界的な物価高に飲み込まれることになる。失われた数十年とともに日本人はほとんど物価の上昇を経験してこなかったし、多くの現役世代は初めての経験になる。そしておそらくロシアがウクライナに侵攻を続け、先進国がロシアに制裁を続ける限り、この物価上昇は止まることは無いだろう。そして日本銀行は物価目標を達成できないまま、円安が進むことを容認できず、量的緩和政策の停止と金利の上昇を余儀なくされると考えている。そして、これも多くの現役世代が経験していない金利の上昇が起こる。おそらくローンを組んで何かをすることが今以上に難しくなる環境になるだろう。そうするとこれから先の10年程度で起きると予想されるのは、物価の上昇、金利の上昇、それに伴う労働争議や年金受給者の上昇運動などこれまでの「安定した失われたn年」の状態が終わることだ。このパラダイムシフトは物を買える人と変えない人の格差をより明確にし、社会の不安定化につながるのではないかと思っている。厳しい経済環境に慣ればゾンビ企業が存続できず、雇用が流動化するだろう。しかし流動化した先に個人の雇用先が見つかればよいが、それが見つからない人はどうするか両輪で検討する必要がある。また雇用が流動化すれば、従業員の解雇規制をしていた日本にとってはある種、戦後の経済体制からの脱却になり、もし企業が社員の首を簡単に切れるように慣れば戦前のような型通りの資本主義時代に戻ることになる。そして当時の日本が大きな格差があったことや、それによる閉塞感が溜まっていたこと、そしてそのような国民は不満をいだきやすいことは歴史の記憶として認識する必要があるだろう。

 

(*素人が書いたもの。根拠や出典はない。)

 

 

画像:

https://pixabay.com/ja/photos/%e7%99%bd%e3%81%84%e8%8a%b1-%e6%a1%9c%e3%81%ae%e6%9c%a8-%e3%83%a2%e3%83%ac%e3%83%ad%e6%a1%9c-7232274/

*1:アメリカの4月の失業率、世界恐慌以降で最悪の14.7%に 米労働省雇用統計:https://www.bbc.com/japanese/52596676

*2:”米 失業率3.9%に改善 3%台は感染拡大前おととし2月以来:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220107/k10013420561000.html

*3:当時はCDSクレジット・デフォルト・スワップ)が米国の受託ローン債権を組み込んでおり、信用危機も同時に起きていた(2.急激な信用収縮と需要減に直面する日本経済:https://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/200901/2009-1-2.html

*4:FRB、11月から量的緩和策の縮小開始を決定、毎月150億ドル減額:https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/11/44ac61f11f49fdd0.html

*5:ECB、金融緩和政策を維持、2022年第3四半期に資産購入終了の可能性を発表:https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/742f84727a06c333.html

*6:https://jp.investing.com/charts/forex-charts

*7:https://ecodb.net/country/JP/imf_persons.html

*8:バブル期並み98.2% 人手不足「即戦力に」:https://mainichi.jp/articles/20190518/ddm/001/100/138000c

*9:金融市場調節方針の変遷を教えてください。:https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b42.htm/

*10:使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第7回 給与水準を調べる⑦ ~初任給・標準者賃金~:https://www.rosei.jp/readers/article/55305

*11:https://data.nasdaq.com/data/ECONOMIST/BIGMAC_JPN-big-mac-index-japan

*12:https://www.nenkin.go.jp/saiyo/about/data.html

*13:「経済成長と格差について」

*14:【図解・行政】高齢年金受給世帯の状況(2019年7月):https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-syakaihosyo20190702j-10-w390